KAMN
[プロローグ:0.01ミリの世界から】
私はかつて、極限の「正解」を追求する世界にいた。岐阜県郡上市に生まれ、大学卒業後15年間にわたり金属加工の金型部門に従事した。大手企業の自動車重要部品をはじめ、多種多様な金型製作において、エンジニア兼営業として設計から納品までを完遂する日々。そこは、図面こそが唯一無二の法であり、全てである世界だ。0.01ミリ以下の誤差さえ許されない「目に見えない精度」との闘い。図面通りに物質を支配し、完璧な複製を可能にするための「型」を作る。その窮屈なまでの規律と合理性の中に、私のアイデンティティは深く根を下ろしていた。
【マレーシアという鏡:剥き出しの欲望と沈黙】
私は家族と共にマレーシアへ3年間移住した。そこで目にしたのは、急速な発展を遂げた熱帯のエネルギーと、人間の私利私欲が剥き出しになった開発の奔流だった。格差、破壊、そして再生。そこには、変化の裏側にある歪みに気づかぬまま、気づいていても無視して突き進む強烈な「人間力」があった。私はその光景に、ある種の清々しさを覚えた。欲望に従い、自然を変えてでも、生きる。そこにいる人々には違和感がない。
しかし、2025年末に退職し、再び日本の地を踏んだ時、私は言葉にしがたい戦慄を覚えた。かつての故郷、そして現代の日本社会を覆っているのは、変化に気づかないフリをし、分かっているはずの歪みを見て見ぬふりをする「無味無臭」の静寂だった。表面的には調和を装いながら、そのシステムの裏側に潜む残酷さや矛盾を巧妙に隠蔽する。その「無機質な無関心」の中に生きる日本人の姿に、私はマレーシアで見た欲を剥き出しの人々以上の恐怖と違和感を抱いたのである。
【今後のビジョン:郡上から世界へ】
岐阜県郡上市は、山と川、そして森に囲まれた、良くも悪くも「ど田舎」である。しかし、この限定された土地だからこそ、都市部では見落とされる「生と死の境界線」や「人間と自然の摩擦」が色濃く現れる。そして、そんな近くにいるから気付ける違和感や感情があります。
私はこの地を拠点に、地元に根差した自然物を使いながら、私が感じた普遍的な違和感や感情を表現し続けていく。図面が全てだった精密な世界から、決められる事のない表現者としての世界へ。地方のど田舎というミクロな視点から、世界へ向けて私自身が感じた感情を剥き出しにするアーティストとして歩むことを誓う。